今年で29歳になったものの、特に必要を感じなかったので自動車免許を持っていなかった。気が変わったのは今年の夏くらいで、なんとなく新しいことを始めてみたくなったというのと、お盆休みを使えば教習がすすめられそうと思ったためだ。
この記事では一発試験を選んだ理由や自分の体験を振り替えると共に、結果的にメリットはあったのか? について最後に検証する。体験記に興味がない方は記事末尾の「結果と感想」へ飛んでほしい。
先に、費用と期間の内訳を記載しておく。
免許を取得するには、大きく分けて2つの方法がある。
1つ目は指定自動車教習所に通うパターンで、多くの人はこちらのパターンで免許をとっているらしい。必要な日数さえ教習所に通えば、まず間違いなく免許がとれるというのがメリットだ。デメリットとしては、一発試験にくらべて必要な費用が高額(おおむね30万円以上)という費用の問題と、必ず出席しなければならない授業の枠が決まっていて、土日だけの出席では4カ月くらいかけないと卒業できないという時間的な問題がある。
もう1つは一発試験で免許をとるパターン。各地の警察が運営する運転免許センターで開催されている試験に合格すると運転免許がもらえる。この試験は指定自動車教習所での試験と法律的には同じ基準ではあるが、世の中的には一発試験の方が圧倒的に難しいと言われている。その理由は、指定自動車教習所がお金をもらってお客のために教習をしているのに対し、運転免許センターの試験は免許失効者(違反などで免停になった人も含む)が本当に安全な運転をできるかチェックするための役割も兼ねている為らしい。
メリットは、数万円の受験料だけで免許がとれる圧倒的なコスパと、厳しい警察の試験をクリアすることで安全運転の基本が身に付くことだ。デメリットとしては、試験が平日しか開催されていないことと、何度も落ち続けていつまでたっても免許をとれないリスクがある。また、一発試験は教習ではないので、受かるためにどういうことをやればいいのか、といった具体的なことは教えてくれない。試験の練習は自力で何とかする必要がある。
そして、この一発試験の受かり方を教えてくれるための非公認教習所というものがある。非公認教習所では直接免許はとれない。一発試験への対策を教えてくれる私塾のようなものに考えると分かりやすい。免許がとれないので、必然的に費用は指定教習所よりも安く設定されている。学科の授業も圧縮されていて、拘束される期間は相対的に少ない。
その非公認教習所の中でも、公安委員会に届出を出している届出教習所や特定届出教習所というものもある。これらの「届出」が付く教習所は、ほかの非公認教習所に比べて教習の内容に公安委員会のお墨付きがあるという点が異なっており、一発試験の不合格時、詳しい減点箇所を教習原簿という書類で教えてくれるメリットもある。
「特定」が付くかどうかは、本免許合格の前か後に受講が義務付けられている**特定教習(取得時講習)**がその教習所で受けられるかどうかが違っている。特定講習は応急救護や高速道路講習などが含まれているが、警察が開いている取得時講習は予約がとりにくいと言われている。そのため、あらかじめ特定教習を受けておける教習所の方が免許の取得がスムーズかもしれない。
ここまでのことを整理するとこんな感じになる。
イージーモードだけど時間とお金は一番かかる。
ベリーハードモードでハイリスクハイリターン。免許初めての人にはおすすめできない。
人によってノーマル〜ハードモードくらい。
こういった理由と条件から、一発試験+非公認教習所という組合せを選んで免許をとることにした。自分からハードモードでリスクをとりにいった型となるが、これには**案外運転を習ったら上手い方なんじゃないか?**という自信があったのもある。というのも、
という薄い根拠があったためだ。結果的にこの勘は当たっていたので良かったと思う。
自宅からそんなに遠くなく、都内の路上教習をやっている非公認教習所を探すと**KM自動車教習所(以下KM)**くらいしかなかったので、そこへ入所することにした。乗る機会が無さそうなことと、MTの運転が難しそうに思えたため、コースはAT限定とした。
KMは特定届出教習所でもあるので、特定教習を所内で受けられるメリットもある。
巷では練習コースが田舎にあってボロいとか職員の態度がドライとか、指定教習所との違いを説明してもらえなかったという散々な悪評がネットに投稿されていたりもした。
自分の感想としては施設が古くて浦和にあるのは事実として、入学時にかなり詳しく指定教習所との違いは説明してもらえたし、職員の態度がとりたててドライとは感じなかった(あのスパンで人が入れ替わる環境ならこんなものでは?)。
教官は個性的な方々が多く、進学塾の名物教師的な面白さがあって楽しく実習を受けることができた。運良く怖い人に当たらなかったのかもしれない。
練習コースは確かに古そうだったが、外周道路の直線がある程度長く、40km以上速度を出せる余裕があるのは良かった。
悪評はだいたい教官とウマが合わなかった人や、指定教習所との違いを調べずにミスマッチを起こした人が書いているのではないかと感じる。全体的に施設は古いけど、教習の内容や教官の教え方は妥当というのが僕の感想だ。
はじめのうちはかなりビビり、挙動がクイックすぎるとよく言われていたが、回を重ねるごとに段々操作もスムーズになっていった。ただ、クルマに乗るとこんなに周囲が見えない、ということにとても驚いた。道路の左端が見えないし、どこまでいけば前輪がS字カーブの縁石にぶつかるのかもよく分からない。これはもう勘と経験で覚えるしかない。
そして、視界という意味では最近の車のデザインよりも、古臭いコンフォートの方がはるかに分かりやすいというのも衝撃だった。ボンネットが丸い車は鼻先の位置が分かりにくい、というか分からない。車種によって車体感覚がこんなに違うというのは新鮮だった。
8月のお盆休みと残りの土日を使って第一段階の教習を終え、9月の頭に最初の関門である仮免試験に臨んだ。通常、都内に住んでいる人は都内のセンターでしか受験できない。しかし、KM自動車教習所は特定届出教習所なので、特別に埼玉県の免許センターでも受験ができる。
仮免試験で埼玉を選んだ理由は、学科と実技の試験が1日で済むというメリットからだ。都内の試験場では、学科と実技を別の日程で受けなければならず、必要な有休が増えてしまう。
学科の対策は事前の模試で十分OKだったが、問題は技能試験だ。鴻巣の免許センターには広い場内コースがあり、3種類のコースのどれかが毎日ランダムに選ばれる。合格者はがんばってコースを覚えていると聞いたので、仕方なく自分も覚えることにした。コースの見とり図を30枚くらいコピーし、コースを覚えるまでマーカーで順路を引いて覚えた。また、試験当日の昼休みにコースが解放されるので、昼食はとらずに時間一杯使ってコースを2週歩いた。
コースの攻略ポイントについては、KMでも細かく教えてくれたのだが、それだけでは不安なのでネットの情報もよく調べた。特にこちらのサイトの内容は説明が詳しく、とても参考になった。
試験の順番を待っている間、施設の2階から場内の様子を覗える。減点が超過するとコースを周り切る前に出発地点へ返されてしまうのだが、見ていると完走できない車が非常に多かった。
鴻巣試験場の「見通しの悪い交差点」は悪名高い引っ掛けポイント(全然見通しが悪くないのでつっきてしまう人多数)なので、KMの教官からも十分注意するように説明を受けていた。それにしても全体的に下手な運転が多かったので、これなら行けるんじゃね!? という気分で試験スタート。実際に走行するのは初めてのコースだったが無事完走し、寄せがキツすぎてブレーキ踏もうかと思ったというお叱りの言葉を受けつつも一発合格できた。やっぱり事前にコースを覚えていたことが良かったのだと思う。
KMでは、このまま本免試験を埼玉で受けるか、東京で受けるのかを選べる。それによって路上教習の場所も変わる。僕は都内で運転できれば怖いものはないと思っていたので、本免は都内の鮫洲試験場で受けることにした。
一番最初の路上教習は、サンシャインシティに程近い池袋のど真ん中から始まった。大都会の洗礼を受け、**歩行者大杉、自転車怖杉、周りのクルマ速杉、障害物大杉!**という状態でかなりドキドキした。
場内と違い、路上では色々なことが数秒ごとに振りかかってくる。自転車が信号無視でつっこんできたり、赤になった横断歩道へ駆け込んでくる歩行者がいたり、道路工事で片面通行になっていたり……。こういった光景を運転手側の立場から知るというのはとても新鮮な経験だった。
初めての路上教習、しかも池袋のど真ん中を体験して、「ゲームは無料が当然だと思ってた人が急にゲーム開発者になった」くらい大きな視点の転換があった。今までの人生、僕がひどいマナーでも道路を渡ったり自転車乗れてたのは、ドライバーの運転技術と思いやりのおかげだったのか…
— hokkey (@y_hokkey) 2017年9月11日
それも4回目くらいからは徐々に慣れはじめ、まあ上手い方だと思いますよ、という教官のお褒めの言葉をいただけた。
本免技能試験ではバック種目と呼ばれる課題があり、左右方向転換・縦列駐車の3つのうちどれかが出題される。これはこれで路上教習とは別に練習しなければならない。KMの教習枠だけでは心許なかったのと、KMの教習回数が限界に来ていた(あらかじめ定められた以上の教習は追加料金になる)こともあり、都内の貸しコースで練習をした。
貸しコースは、高円寺にある日通自動車学校を利用した。
同校の貸しコースは、解放日であれば予約なしで誰でも利用可能なので、特に同校の生徒である必要はない。車持ち込みなら1時間3000円程度で借りられる。僕は親に来てもらい、実家のクルマを使って練習した。たまにしか会わない親と話すにも良い機会だ。
意外と貸しコース利用者は多く、僕と同じようにバック種目の練習をしている人達が多かった。
縦列駐車はともかく、左右方向転換は手順通りにやっても中々一発で道の中心にバックができなかった。なので、少しでも危ないと思ったときは必ず幅寄せしてクルマを出すようにすると、安定して課題をクリアできた。面倒くさがって曲がる方向に余裕がないまま出ようとすると脱輪する危険が大きい。
本免試験は仮免に比べたら簡単というウワサを聞いていたので、もうこのままストレート合格いけるかもと思っていたが、思わぬミスによって不合格となってしまった。
そのときは4人中3番目の順番で、既に前の2名は不合格確実な試験内容だった。1人目は、運転は普通だけど信号のない横断歩道で歩行者に譲らず補助ブレーキ。2人目はプリウスの操作方法が分からず発進不良からの試験官補助 & 流れに乗れない超低速運転という感じだった。
運転を交代して正面を見ると見通しの良い直線。遠くには駐車車両が止まっているので、早めに右へ移ろうと思い、発進直後に加速しながら右車線へ移動した。
しかし、実はその車線は駐車車両よりも前の交差点で右折しかできない車線だった。試験官が次直進ですよ、としつこく言ってくる理由が分からず、いくつかの事柄が同時に起こったことで、うまく対処ができなくなってしまった。
結果的にオーバースピードで右折レーンに飛び込み、開始早々に補助ブレーキを踏まれてしまった。その後の運転はいつも通りだったので、あれがなければきっと受かっていたんじゃないかと思うのだが……。
もちろん事前に色々と対策は想定していたのだが、普段の教習ではやらないミスだったので、全く予想外のことだった。
結局、その試験では受験者4人全員が路上不合格となり、誰一人としてバック種目に挑戦できず終わった。試験終了後のあの重い空気のことは今でも忘れられない。
秋の鮫洲の空は美しかった #一発試験落ちた pic.twitter.com/cM1ia8gWB2
— hokkey (@y_hokkey) 2017年10月30日
さて、落ちてしまったからには次回の試験を予約しなければならない。しかし、2017年10月時点での鮫洲試験場は本当に予約がとれなかった。なんと、次の予約が一カ月先まで空いていないのだ。仮免の有効期間が6カ月、路上練習申告書の期限が試験当日から3カ月以内であることを考えると、これはかなりリスキーだ。試験が中々受けられないばかりか、仮免期間内に4回くらいしか試験を受けられないことになってしまう。電話でキャンセル待ちを問い合わせることもできるが、僕は毎朝電話しても結局予定の前倒しは叶わなかった。
東京には府中にも試験場がある。また、KMであれば埼玉の試験場で本免を受けることもできる。そちらはもう少し予約のスパンが短かく、だいたい2週間くらいでとれるらしい。
試験場を鮫洲ではなく府中に変えようかとも悩んだが、そのためには府中へ予約をするためだけに一回有休を使う必要がある(直接出向かないと予約ができない)。また、せっかく鮫洲の路上試験を前提とした対策をしたり、実際の試験を経験したことも無駄になる可能性がある。結局、悩んだもののもう1回だけ鮫州で受けようと決心した。しかし、もし自分がこの状況を知っていたとしたら初めから別の試験場にしていたかもしれない。
2回目の試験までの間は、試験の前週に一度路上の補習とバックの自主練をした。技術的には十分受かる実力はあると言われているので、あとはもうがんばるしかない。次に落ちると、有休もそんなに残っておらず厳しい戦いになる……。
2回目の本免試験は自分が一人目となってしまった。マジかー、と思いつつハンドルを握って発進する。今までの試験で一番緊張していたかもしれない。黄色信号で停止線を越えたときはバックの意思を示すことや、横断歩道で後から駆け込んできた人を渡らせる、信号のない横断歩道で渡りたそうな人を渡らせるなどのポイントを無事クリアできた。少なくとも一発アウトには引っかかってないぞ、これは行ける! と思い運転を交代すると、驚くほど今回の受験者は運転が上手い。何と4人全員が次のバック種目に進むことができた。
バック種目では右方向転換が出題された。順番は自分が最初のまま……。練習していた車種が違うので、プリウスでやれるかどうかはあんまり自信がない。やっぱり中心にはうまく入らなかったので、切り返し1回を挟んで道に出る。脱輪しないことを祈りながら外に出られたときは感無量だった。
「合格予定です。ただ、黄色信号で止まるのは良いのですが、停止線に乗っちゃっても良いのであまり急ブレーキを強く踏まないでくださいね」
というコメントをいただき、ついに合格がもらえた。「合格予定」というのはこの界隈の業界用語みたいなもので、要は合格のことだ。
KMで既に特定教習を終えていたので、そのまま免許証を受け取って帰ることができた。
それではもう一度、かかった費用と期間を記載する。
2017年現在、指定教習所のAT限定・取得済免許なしのコースはだいたい税込で30万〜32万程度の価格帯にあるので、それに比べて3万5000円〜5万円程度安く済んだ。指定教習所に対して10%から15%ほどおトクだ。
本免で一発合格していた場合、以下の費目がかからなかったことになる。
差額は1万4440円となる。仮に本免で落ち続たときこれと同じ費用がかかり続けるとすると、あと3回、合計で4回落ちたあたりから指定教習所に対する金額的優位が失われることになる。
もし10月30日の試験で受かっていれば、お盆休みの効果もありたった2カ月強で免許がとれたことになっただろう。その後の期間のほとんどは鮫洲試験場の予約空き待ちだったので、教習はほとんどやっていない。
そのため、期間が伸びてしまった理由は教習所というよりも鮫洲試験場の予約待ちの長さにあった。このことを知っていたら、自分なら鮫洲ではなく府中での受験を選択していたと思う。
仮免1回、本免1回くらいの不合格であれば、指定教習所よりもまだ安いと言える。ただ、10万くらい安い印象を持っていたのに対して、思ったよりも総合的な金額には差がつかなかった。
教官に聞いたところだいたいの受講者は3回目以内で試験に受かっているそうなので、あとは自分の素質がどれくらいありそうかとの相談となる。
深刻なのは、鮫洲試験場の予約のとれなさだ。ここまで予約がとれなくなったのは比較的最近(2017年下半期)のことで、利用者からの苦情も増えているらしい。何らかの改善が望まれるが、状況が改善されないのであれば府中での受験を考えた方が安全かもしれない。
試験に落ちるリスクを理解した上で、短い期間で難しい試験に挑戦したい! という人には、一発試験+非公認教習所という組合せは十分選択肢になると思う。逆に、リスクを避けたい場合は無理せずに指定教習所を選んだ方が安全だ。
いずれにしても、免許の更新忘れなどによる失効はくれぐれも注意したい。指定教習所卒で失効後に一発試験を受けることになると、かなり苦労するらしい……。
※投稿内容は私個人の意見であり、所属企業・部門見解を代表するものではありません。