自宅でWi-Fi接続している機器が50台近くになり、一般家庭向けの無線ルータではパフォーマンスに問題が起きはじめた。いくつか製品を比較した結果、OmadaというTP-Linkの業務用製品ラインがよさそうだったので、比較的手頃なER7212PCを中心に自宅ネットワークをリプレースした。 Omadaに関する日本語の記事はほぼ存在しなかったが、GUIが充実しているため、初心者でも十分「中小企業並」のネットワーク設計を体験できる構成が実現できた。
なお、「中小企業並」とは、以下の要素に基く:
予算6万円程度で検討した結果、Omadaの統合型ルータとアクセスポイントの構成を採用することにした。もともと使っていたTP-Link AX-10が使いやすかったことや価格の関係から、自然とTP-Link系のOmadaに行き着いた。
最終的にこの3つのOmada製品を導入した。
Omadaで現状唯一の統合型ルータで、おそらく小規模な事業所などを想定したオールインワン機材。今回の家庭での導入にも身の丈にあっている。
Wi-Fi6対応の天井据え付け用のアクセスポイントで、2.4GHz、5GHz対応。6GHzのWi-Fi6Eには未対応。また、ギガビットイーサにまでしか対応していないので、5GHz帯の160MHz通信では有線部分の速度がボトルネックになるので注意。
たまたまAmazonで安く入手できそうだったことと、Wi-Fi6系のアクセスポイントの中では性能的に一番良い機種だったので購入。
Wi-Fi5対応の屋内/屋外両対応のアクセスポイントで、2.4GHz、5GHz対応。Wi-Fi5までなのでWPA3が使えなかったり、ビームフォーミングが弱いなど旧型。メルカリで安売りされていたことと、2.4GHz帯のアンテナを屋外のカメラにできるだけ近づけたかったので購入。
屋外対応ではあるが、自宅にはそもそも屋外にイーサネットを伸ばせるような開口部がないので屋内で運用。
一見、パッケージに技適マークがないため怪しいが、日本語サポートのシールが貼られている。 開封すると技適のシールが付属しているので問題なし。
これまでWi-Fiルータを床置きで使っていたが、Omadaにするとルータとアクセスポイントが分離される。そのため、アクセスポイントは電波発信源としてより適した場所に設置できる。
ただ、自宅の物理的な制約もあることや、一度設置すると動かしにくかったり、建材に穴を開ける必要が出てくるため慎重に検討した。
Omadaの製品紹介サイトを見るとEAP653のような皿型のアクセスポインの設置例として天井や壁に据え付ける写真が描かれている。付属品とし木ネジや金属マウントがついてきたが、これを使って自宅に据え付けるのはかなりリスキーだと感じた。
結局、自宅の天井裏へ下向きに置くことで様子を見ることにした。天井裏へ配線をできる物理的な余地があったこと、居室の美観を損ねないこと、再配置が容易なこと、家に穴を開けずに済むことなどが理由だ。
Omadaコントローラにヒートマップの機能があるので1階の図面を元に2.4GHzと5GHzのシミュレーションをそれぞれ作成した。
2.4GHz用のEAP225はなるべく外周寄りに設置
5GHz用のEAP653は中央部に設置
これまでは40台以上のクライアントが1つのサブネットにぶら下がっていたため、用途別にVLAN/サブネットの切り分けをしつつ、従来のSSID構成から最低限の手順で移行できる設計にした。
ChatGPTの支援のもと、自宅内のクライアント種類を見渡して通信の性質が異なる機器群を棚卸し。 それらを「セキュリティ」「帯域の優先度」「発信・受信の役割」によって分類し、 VLANごとに隔離・最適化することにした。
移行前/後 | サブネット | - | - | - | 192.168.0.1⁄24 | 192.168.0.1⁄24 | - |
---|---|---|---|---|---|---|---|
移行前 | SSID名 | - | - | - | WLAN 5G | WLAN | - |
用途 | - | - | - | 5GHz機器用 | 2.4GHz機器用 | - | |
帯域 | - | - | - | 5GHz | 2.4GHz | - | |
帯域幅 | - | - | - | 80MHz | 20MHz | - | |
セキュリティ | - | - | - | WPA/WPA2(AES) | WPA/WPA2(AES) | - | |
移行後 | サブネット | 192.168.10.1/24 | 192.168.15.1/24 | 192.168.20.1/24 | 192.168.30.1/24 | 192.168.40.1/24 | 192.168.45.1/24 |
VLAN | VLAN10 | VLAN15 | VLAN20 | VLAN30 | VLAN40 | VLAN45 | |
VLAN用途 | サーバ用 | リモートワーク用PCを隔離 | ゲーミングPC、Echo Show 15、Meta Quest、PlayStaion 4などのメディア端末 | PC/スマートフォンなどの一般的な端末 | ECHONETLite、Matter、その他家電などIoT機器 | Google Nestドアベル、SwitchBot屋外カメラなどのカメラ機器 | |
SSID名 | (有線のみ) | WLAN-NET-15 | WLAN-NET-20 | WLAN 5G | WLAN | WLAN-NET-45 | |
帯域 | - | 5GHz | 5GHz | 5GHz | 2.4GHz/5GHz | 2.4GHz | |
帯域幅 | - | 160MHz | 160MHz | 160MHz | 20MHz/160MHz | 20MHz | |
セキュリティ | - | WPA3 | WPA3 | WPA3 | WPA/WPA2(AES) | WPA/WPA2(AES) |
WLAN
とWLAN 5G
は、SSID名とパスワードを据置きでそのまま移行
同一ネットワーク内ならmacOSの「画面共有」や「ファイル共有」は、LAN内の別の端末からもBonjourという仕組みで自動検出できる。この仕組みのことを「mDNS(マルチキャストDNS)」と言うが、VLANが分かれると、他のVLANにある機器が発信するmDNSを検出できなくなってしまう。
これを回避するために「mDNSリピータ」という機能がある。これを使うと、VLANからVLANへmDNSブロードキャストを中継できる。
OmadaにはデフォルトでAirPlayやSMBなどいくつかmDNSのサービス名が登録済だが、これでは不十分なので手動で追加した。
_rfb._tcp.local
_asquic._udp.local
(Steam Linkにも使われている?)_companion-link._tcp.local
_oculusal._tcp.local
_oculusal_sp._tcp.local
_oculusal_sp_v2._tcp.local
_hue._tcp.local
_huesync._tcp.local
_hap._tcp.local
(HomeKit)SwitchBot, Nature, Kasa, Tuya, Meross, Panasonic, iRobot, Google Nestなどの機器を運用しているが、ほとんどのサービスはインターネット経由でデバイスに接続するため、実際のところVLANが分かれていて困るケースは少ない。
ただし、一部の機器は初期セットアップのときに同一ネットワークで構成する必要がある。そういった機器は初期設定時にだけIoT用のSSIDにスマートフォンを繋げば問題ない。
OmadaのmDNSサービスは追加登録できる数がそれほど多くないため、完璧にリピータを構成するよりも割り切った方が運用が楽に感じた。また、mDNSに強く依存するサービスがあるときは、そもそも使いたい機器同士が同じVLANになるように構成した方が良い。
GitHubにあるmdns-browserを使うと、同一ネットワーク内のブロードキャストサービスを検索できるので、検出できないサービスがあるときにこれで調べると便利だった。
VLANを分けるとブロードキャストは届かなくなるが、IPアドレスが分かっていればVLANをまたいでも通信自体は可能。ただ、せっかくVLANを分けたのでACLをなるべく厳しめに設定した方がセキュリティが向上する。
たとえば、中国製のよくわからない脆弱なIoT機器が侵害されたとして、通信がVLAN40に隔離されていればVLAN10のサーバへのアクセスはできなくなる。
デフォルトの設定ではVLAN間で自由に通信できてしまうので、LAN間の通信はできる範囲で制限を加えた。
ER7212PCの起動/再起動はとにかく遅い。内蔵のLinuxが起動してWebアクセスが可能になるまで体感で5分以上、10分未満程度の時間がかかる。これは海外フォーラムでも指摘されている「仕様」らしく、現状は甘んじるしかない。ただ、本当に再起動が必要なシーンは本体ファームウェアの更新くらいだ。
ER7212PCのOmadaコントローラは標準でhttps://192.168.0.1
がWebコンソールのURLとなっており、当然HTTPSの証明書警告が出る。この警告は無視して入るしかないので面喰らわないように注意。
Omadaはネットワーク専門ではないユーザーを対象としたGUIになっており、細かいヘルプが日本語訳も含めてかなり充実している。このヘルプとChatGPTのサポート、IPv4の初歩的な知識があればそこまで迷うことなく構成できる。
Omadaコントローラは複数拠点の構成に対応しており、拠点のことをOmadaでは「サイト」と言う。ログイン直後は「グローバル」設定の画面になっている。初期セットアップ時に最初の「サイト」を作っているはずなので、具体的なネットワークの設定をするには右上のプルダウンメニューから移動すること。
なお、TP-Link IDの連携など、いくつかの設定はグローバルレベルでしか設定できない。
グローバル設定でTP-Link IDの連携を設定すれば、統合型ルータのWebコンソールにクラウド経由でアクセスできるようになる。
また、モバイルアプリもありiOS/Androidからルータの設定にアクセスできる。モバイルアプリはフル機能の8割くらいに機能が限定されているが、まあまあ便利なので使っている。モバイルアプリはLAN内にコントローラがあれば検出してくれるし、TP-Link IDが連携済ならクラウドからもアクセスできる。
作ったばかりのサイトには「Default」という命名のネットワークしかないので、サイトの設定メニューから「有線ネットワーク > LAN > 新しいLANを作成」ボタンをクリックして新規ネットワークを作る。
このとき、ラジオボタンで「インターフェイス」と「VLAN」を選べるが、「VLAN」の方はL2ネットワークしか作らないので、通常は「インターフェイス」を選んでL2と共にL3のサブネットも構成すること。
(下図)「目的」が「VLAN」だとL3の構成ができない。「インターフェイス」だとL3とセットで構成できる。
192.168.??.1/24
と設定し??
部を適当な識別しやすいアドレスにする前述の設定だけではまだポートとVLANへのマッピングはできていないので追加の設定が要る。
まず、「デバイス > ER7212PC > ポート > 設定したいポートの編集ボタン」をクリックする。
そうすると「PVID」からVLAN IDを選べるので、このポートにマッピングしたいVLAN IDを選んで「適用」ボタンを押す。
雰囲気的に「スイッチの設定」からポートとVLANのマッピングができそうな雰囲気だが、ER7212PCの本体ポートはスイッチではなくゲートウェイ扱いなので、ここから設定はできない。分かりにくい。
「設定 > ワイヤレスネットワーク > WLAN」から構成したいSSIDを選んだら、「VLAN」を「カスタム」、「VLANの追加」から作成済のネットワーク名を選んで「適用」を押す。こうすると、そのSSIDに接続したクライアントはそのVLANのサブネットでIPがふられるようになる。
デフォルトではサイト内の全てのアクセスポイントで2.4GHz/5Ghzが構成される。個別のアクセスポイントごとに帯域を構成したいときは各アクセスポイントの設定から行う。
今回はEAP653を5GHz専用、EAP225を2.4GHz専用にしたかったので、下図のチェッボックスで帯域ごとに停波を設定している。
「設定 > サービス > mDNS > 新しいルールを作成」ボタンからルールを追加できる。
「デバイスの種類」は有線ネットワークも含めたいので「ゲートウェイ」を選択。「Bonjourサービス」には中継したいサービスを選ぶ。「サービスネットワーク」にはmDNSの発信元となるネットワークを選択し、「クライアントネットワーク」にはmDNSの中継先となるネットワークを選んで「適用」を押す。
デフォルトのBonjourサービスで足りないときは「Bonjourサービスの管理」から任意のmDNSサービス名を追加できる。
ただし、合計で15個までしかサービス名を追加できないという仕様があり、上限を越えると「カスタムBonjourサービスの数が上限に達しました。」というメッセージを表示して打ち止めになってしまう。mDNSの中継はよく厳選するか、専用のmDNSリピータのサーバを立てるなどの代替策が必要かもしれない。
オンラインゲームなどでポートを開く必要がある場合などに向け、ネットワーク単位でUPnPの許可を設定できる。
「設定 > セキュリティ > ACL」からVLAN間のアクセスコントロールを追加できる。デフォルトでは全部許可されてしまうので、図のように全プロトコルの通信をDENYするルールをネットワークごとに追加している。
これだけだと、たとえばVLAN30からVLAN10の画面共有やSMBにアクセスできないので、DENYよりも高い優先度で許可ルールを構成する。
本当はプロトコル粒度ではなくIP/ポート単位でもっと厳格に指定したいが、今のところLAN間通信でその粒度のACLはできないようだ。
「デバイス > 設定したいクライアント > 設定」から固定IPを付与できる。
デフォルトではログの履歴が保存されない。接続履歴を保持したい場合はコントローラの設定で有効化が必要になる。「グローバルビュー > 設定 > コントローラー設定 > クライアントの履歴データ」を有効化して保存期間を設定してから「保存」をクリックする。
「グローバルビュー > 設定 > メンテナンス」から、設定のバックアップや書き戻しができる。定期的にリモートのファイルサーバへ設定を自動バックアップする機能もある。対応プロトコルはFTP, TFTP, SFTP, SCP。
最近のプロバイダでよく使われているIPoEやMAP-EなどのIPv6には未対応だ。つい最近ER8411・ER7206・ER706Wに対応したファームウェアが公開されたが、ER7212PCにはまだ提供されていない。
ER7212PCへファームウェアが今後提供されるかは不透明。これらのIPv6方式のISPの場合、WANとの間に一台ルータを噛ますのが当面の運用になるかもしれない。
サイトを表示中はツールバへ常に「緊急フリーWi-Fiサービス」というボタンがある。これは災害時に公衆Wi-Fiを無料公開するための機能で、一般家庭においては無用の長物だ。
間違えて押したくないのでボタンを隠したいが、そのような設定は現状見つからなかった。
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